Japanische Klassiker mit Furigana
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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
Lesen Sie わか紫 (わかむらさき) von 泉 鏡花 (いずみきょうか) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.708 Zeichen · 75 Bildschirme
下り立つと浮世が遠い。
燈は朦朧と夫人の影を薄く倒した。
二足ばかり横へ曲ると、正面に、蒼く瘠せたる躯を納めて、病も重き片扉。
夫も籠れる心細さ。力なく引手に手をかけ、裳を高く掻い取って、ドンと圧すと、我ながら、蹴出の褄も、ああ、晴がましや、ただ一面に鼠の霧、湯花の臭気面を打って、目をも眉をも打蔽う土蜘蛛の巣に異ならず。
(蔦か。)
(旦那様、)と答えたが、湯殿は約十畳余、さまで広くもない中に、夫の姿を認めたのは、ややしばらくの後であった。
今更ながらいかなる状ぞ。
煉瓦で畳んで四方壁、ただその扉ばかりを板に、ぐるりと廻して二三段、高く低く、飛々に穿った穴、幾多の屍を中に埋めて崩れ残った城の壁の、弾丸のあとかと物凄い。その一ツ一ツから、濃厚なる湯の煙、綿を束ねて湧き出でて、末広がりに天井へ、白布を開いて騰る、湧いてはのぼり、湧いてはのぼって、十重に二十重にかさなりつつ、生温い雫となって、人の膚をこれぞ蒸風呂。
患者が顔を差寄すれば、綿なす湯気は口に漲り、頬を蔽い、肩を包み、背に拡り、腰に纏うて、やがて濛々としてただ白気となる。
足、手、幽な肉の一塊、霧を束ねて描ける状よ。