Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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クルスかんのん

十字架観音

野村 胡堂

Lesen Sie 十字架観音 (クルスかんのん) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.655 Zeichen · 27 Bildschirme

Aozora Bunko

「左様」

「お立寄り下さいませ、秋の家へ」

「さア」

「母がどんなに喜びますでしょう」

「この近所か」

「ツイ其処、ほら、見えるでしょう」

少しぞんざいな口をきいて、お秋はよりそうように伝法院の裏の方を指しました。桃色真珠のように、夕陽に透いてキラキラと光る指を見ると、目当ての家などは何んでもよかったのでしょう。

二人はそのまま田原町から蛇骨長屋へ、言葉少なにつれだって行きました。

よく磨いた格子のなかには、御神灯がブラ下って、居間の長火鉢の上には、三味線が二挺――それを見ると、余吾之介は二の足をふみましたが、此処まで来るとお秋の方が帰してはくれません。

お秋はその頃江戸の町に散在していた、町芸者の一人だったのです。

「元は?」

座もきまらぬに、余吾之介は、うろうろ四方を見廻しております。

「母はあれにおります、余吾之介様」

指した方には、ささやかな仏壇。

「何? 死んだのか」

「え、達者でいるとは申しませんでした、待っているとは申上げましたが、ホ、ホ」

「それは」

余吾之介はそれっきり苦笑いを噛み殺しました。騙されて此処までつれこまれたには相違ありませんが、お秋の悪戯っ娘らしい狡そうな忍び笑いを見ると、腹をたてるのも馬鹿馬鹿しかったのです。