Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
「しっかりして下さい。しっかり」と姉は別際まで繰返した。
明日は出発の予定だったが、彼はまだ兄に借金を申込む機会がなかった。いろんな人々に遇い、さまざまの風景を眺めた彼には、何か消え失せたものや忘却したものが、地下から頻りに湧き上ってくるような気持だった。きのう八幡村に行く路で雲雀を聴いたことを、ふと彼は嫂に話してみた。
「雲雀なら広島でも囀っていますよ。ここの裏の方で啼いていました」
先夜瞥見した鼬といい、雲雀といい、そんな風な動物が今はこの街に親しんできたのであろうか。
「井ノ頭公園は下宿のすぐ近くでしょう。ずっと前に上京したとき、一度あの公園には案内してもらいました」……死んだ妻が、嫂をそこへわざわざ案内したということも、彼には初耳のようにおもわれた。
彼はその晩、床のなかで容易に睡れなかった。〈水ヲ下サイ〉という言葉がしきりと頭に浮んだ。それはペンクラブの会のサインブックに何気なく書いたのだが、その言葉からは無数のおもいが湧きあがってくるようだった。火傷で死んだ次兄の家の女中も、あの時しきりに水を欲しがっていた。水ヲ下サイ……水ヲ下サイ……水ヲ下サイ……水ヲ下サイ……それは夢魔のように彼を呻吟させた。