Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 192.758 Zeichen · 383 Bildschirme
そして何か求めるように手をうごかした。
「……何でござりますか。……何ぞ?」
「やたて」
「矢立と仰せなされますか」
茂朝はいそいで鎧の袖から懐紙と矢立を取り出した。
おぼつかない指先に、光秀は筆を持たせてもらった。そして白い紙のうえを睨まえた。
(さては辞世を書きおくお心とみえる)
茂朝は胸の塞がる気がした。今ここで光秀にそんなものは書かせたくないと思い募った。大きな運命というものへ対して、彼の執着は無性な反抗を心のうちで試みていた。
「殿。殿。……かいないお筆をお取り遊ばしますな。大津まではもう一息、そこまで辿りつけば、左馬介光春様にもお迎えに見えられましょう。……さ、傷口を巻きましょう」
と、懐紙を地に置いて、わが帯を解きにかかると、光秀はふいに、愕くべき力でその手を振った。
そして左の手をつかえ、地上の白紙へ向って右手を伸ばすと、筆の腰も折れるばかりな力で、
順逆無二門
と書いた。
――が、次の文字は、もう手のふるえが烈しく書けないらしいのである。光秀は茂朝に筆を渡して、
「あとを書け」
と、云った。
「…………」
茂朝の膝に凭れたまま、光秀は、面を天に向けた。