Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.091 Zeichen · 30 Bildschirme
こんなに深く人の心にくいいりながら、あのようにみれんもなく去ってゆけるものだろうか。事に触れ物につけて記憶をかきたてられるやりきれなさに、平之丞はそのようなめめしい嘆息をもらすことさえあった。――そういえば素性もわかっていなかった、或るときそう気づいて、父の遺品を精しく調べてみた。然し手掛りになるような物はなにも無かった。ごく若いときからの日記があるので、眼の痛くなるような細字を拾い拾い読んでみたが、やっぱりお石に就いてはなにも記してはなかった。彼は惘然として、飛び去った鳥のあとを追想するような、つかみどころのないはかない気持で日を送っていった。
彼は二十七歳の春に結婚した。母が寂しがってすすめるし、かくべつ拒む理由もないので、父の在世ちゅうはなしがあったという松井六弥の妹を娶った。祝言が済んで暫く経ってからのことだが、六弥が訪ねて来ていっしょに酒を呑んだとき、
「いつかの花見の催しを覚えているか」
と笑いながら云った、
「あれは実を申すとそでを見てもらうためだったのさ、わからなかったのかね」
「うん……」
平之丞はそのときの絢爛たるさまを思いかえした、そしてそのなかにふとお石のおもかげをみいだしたが、もう心の痛むようなこともなく、そのおもかげもすでにおぼろなはかない印象になっていた。