Japanische Klassiker mit Furigana
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はえ
日輪 春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪 春は馬車に乗って 他八篇 (はえ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.478 Zeichen · 14 Bildschirme
蠅
一
真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋の蠅だけは、薄暗い厩の隅の蜘蛛の巣にひっかかると、後肢で網を跳ねつつ暫くぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぼたりと落ちた。そうして、馬糞の重みに斜めに突き立っている藁の端から、裸体にされた馬の背中まで這い上った。
二
馬は一条の枯草を奥歯にひっ掛けたまま、猫背の老いた馭者の姿を捜している。
馭者は宿場の横の饅頭屋の店頭で、将棋を三番さして負け通した。
「何に? 文句をいうな。もう一番じゃ。」
すると、廂を脱れた日の光は、彼の腰から、円い荷物のような猫背の上へ乗りかかって来た。
三
宿場の空虚な場庭へ一人の農婦が馳けつけた。彼女はこの朝早く、街に務めている息子から危篤の電報を受けとった。それから露に湿った三里の山路を馳け続けた。
「馬車はまだかのう?」
彼女は馭者部屋を覗いて呼んだが返事がない。
「馬車はまだかのう?」
歪んだ畳の上には湯飲みが一つ転っていて、中から酒色の番茶がひとり静に流れていた。農婦はうろうろと場庭を廻ると、饅頭屋の横からまた呼んだ。
「馬車はまだかの?」