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Japanische Klassiker mit Furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme

Aozora Bunko

宇乃は息を詰めた。

「鯉はやはりじっとしていた」と甲斐は続けた。

抱きついた腕の中で、鯉はじっと動かなかった。彼はぬめぬめと滑る魚躰を押え、身を跼めて、自分の胸へ抱きあげようとした。すると初めて、あたかもその時を計っていたかのように、鯉はすさまじい力で跳ねた。幼ない甲斐は腕を緊め、鯉はするっとその腕からぬけた。鯉はしぶきをあげて水へ落ち、甲斐は全身でつかみかかった。

「私は鯉をつかんだ、たしかにこの手で、鯉のどこかを捉まえ、そのまま深みへひきこまれた」

こう云って甲斐は口をつぐみ、眩しそうな眼つきで、対岸を見やった。

日は高くなり、丘の上の松林は、灰色の幹と、黒みを帯びた濃緑の葉を、くっきりと明るく際立たせていた。宇乃は待ちくたびれたように、それからどうしたのか、と訊いた。すると、水面の浮子がくくっと、斜めに水の中へ引込まれ、釣竿の尖端が、しぼるように撓んだ。宇乃が「おじさま」といい、甲斐が竿をあげた。半ば竿をあげ、立ちあがって、魚の大きさをさぐってから、糸を巧みにあおり、竿を振って、魚をひきよせた。

「まあ大きい」と宇乃も立ちあがって叫んだ。

魚は水際へ来て、右に左に身を振り、尾鰭でしきりに水を打った。