Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme
さして大きくはないが、尺ちかい鯉で、金色の鱗が、美しく鮮やかに見えた。甲斐は竿を振り、巧みに水際へひきよせ、それから颯と魚をあげた。鯉はきれいに水から抜かれ、河原の石ころの上に落ちて、いさましく、水玉をとばしながら跳ねた。
「おじさま早く、逃げてしまいます」
「およし、宇乃」と甲斐が云った、「触ってはいけない、手が臭くなる」
「でもおじさま、逃げてしまいますわ」
「逃げてもいいんだ」
「どうしてですの」
「坐っておいで」と甲斐は云った。
彼はまだ活溌にはねている鯉を押え、その口から鉤を外すと、鯉はそのままにして、流れで手を洗い、洗った手を拭きながら、元の流木へ腰をかけた。
「深みに落ちたまま、私は溺れて、流されていった」と甲斐は続けた。
宇乃は鯉のほうを見ながら、彼の話すのを聞いていた。鯉は石ころの上でふと動かなくなり、ついで大きく跳ね、少しなぞえになっている河原を、水際のほうへと転げた。
「ずっと流れて、殆んど十町ばかり下で、人に救われたのだが、右手に釣糸を握ったままで、その糸の先にはまだ、その大きな鯉が付いていたそうだ」
「まあ、こわい」と宇乃が云った。
石ころの上の鯉は、ぐったりと伸び、口を大きく二度、三度、喘ぐように動かした。