Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme
「或る風説とは、なんだ」と兵部が訊いた。
甲斐は眼をみはった。その質問がまったく意外だったかのように、眼をみはって兵部を見、それから、御存じではなかったのか、と訊き返した。兵部が首を振り、重ねて、「なんだ」というと、甲斐はもっと意外そうな表情をし、口ごもりながら云った。
「六十万石分割の評です」
兵部は平手で顔を叩かれでもしたように、ふっと脇へそむき、そうして、すぐに用心ぶかくその眼を甲斐に戻した。
「六十万石を、分割だと」
「もちろん根もない妄説です」と甲斐は云った、「老中の厩橋(酒井忠清)侯とお屋形さまとのあいだで、――伊達家中になにか紛争を起こして、六十万石を分割し、三十万石をお屋形さまに与えるという契約があり、証文まで交わされているというのです」
「誰が」と兵部は吃った、「なに者がさようなことを」
甲斐は静かに、もちろん、と首を振りながら遮った、「多少なりとも思慮のある者なら、根もない妄説だということはすぐわかります、しかし、血気にはやる者、事を好む者、年が若く分別の足らぬ者などには、虚妄の説ほど信じやすく、いったん信ずればそれを固執して動きません、私を襲った刺客は、私がお屋形さまにくみして、六十万石分割を謀っていると信じたからで、もしこのたびの事が置毒であるとわかれば、かれらはきっと、東市正さまにその