Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
「抜き身のままのほうがいい、そのほうがすぐにやれる、鞘は無用だ」
「誓紙に巻きましょうか」
「誓紙は持ってはゆかない、あれは涌谷へ送るのだ、短刀はそれらしい奉書にでも巻いてゆこう」
「わかりました」
「いちどためしてみるか」
采女は、はい、と云った。
彼は寝所の隅へさがり、短刀を抜き身のまま反故紙に巻いて、文箱へ入れ、蓋をして打紐をかけ、きちんと締めた。それから、七十郎のほうへ、膝で静かに進みよった。七十郎が、近すぎる、と云った。
「そこまでは近よれない、間合はほぼ十尺だ、それ以上は近よせもしまいし、しいて近よると怪しまれるぞ」
采女はやり直した。
こんどは十尺ほどの間隔をおいて坐り、文箱の打紐を解き、蓋をあけた。そして巻いた反故紙を取り出すと、それを両手で持ったまま、敏捷に七十郎へとびかかった。殆んど躯を叩きつけるような勢いで、七十郎は思わず躰を躱したくらいであった。
――これはやれるぞ。
と七十郎は思った。平生のおとなしさに似ず、その動作の敏捷さと、呼吸のたしかさはみごとなものであった。七十郎は坐り直して、「もういちど」と云った。采女は文箱を元のように直して、また隅のほうへ戻った。