Japanische Klassiker mit Furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lesen Sie 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 77.492 Zeichen · 156 Bildschirme
自分を乗せた車の下の、レールの中までこの罌粟は生(お)い茂っているかもしれないと彼は思った。そして、暫(しばら)くはひとりぼんやりと見るには惜しくなって知人の誰彼の顔も浮んで消えたりするのだった。
彼はまた幼いころ日本でよく歌ったことのある、ダニューブの漣(さざなみ)という唱歌を思い出しもした。そのころは、自分がハーモニカを吹き、姉がヴァイオリンを弾(ひ)いて伴(とも)に愉(たのし)んだある夏の夕暮だったが、いま姉も一緒につれてここをこうして旅したなら、どんなことを姉は云い出すだろうと空想したりした。この空想は梶には非常に愉しかった。汽車の音を聞いていても、車輪の廻転していく音響がいつか少年のころのその歌に変って来たりして、河水の碧く白く日を浴びてどこまでも連っていくあたりの野の中が、
「タアン、タ、タタタン、タアンタ、タアン」
と、このような調子の歌となり、梶はしばらくそのメロディを胸中ひとり弄(もてあそ)んでみているうち、実地にそこを走っている自分のことをもう忘れた。それはちょうど、遠い流れの向うから聞えて来る草笛の音のような、甘酸っぱい感傷の情のおもむきで、ひたひたと身に迫って来る水に似た愁(うれ)いさえ伴うのだった。