Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
お雪は窓から立ち、茶の間へ来て煙草へ火をつけながら、思出したように、
「あなた。あした早く来てくれない。」と云った。
「早くって、夕方か。」
「もっと早くさ。あしたは火曜日だから診察日なんだよ。十一時にしまうから、一緒に浅草へ行かない。四時頃までに帰って来ればいいんだから。」
わたくしは行ってもいいと思った。それとなく別盃を酌むために行きたい気はしたが、新聞記者と文学者とに見られて又もや筆誅せられる事を恐れもするので、
「公園は具合のわるいことがあるんだよ。何か買うものでもあるのか。」
「時計も買いたいし、もうすぐ袷だから。」
「あついあついと言ってる中、ほんとにもうじきお彼岸だね。袷はどのくらいするんだ。店で着るのか。」
「そう。どうしても三十円はかかるでしょう。」
「そのくらいなら、ここに持っているよ。一人で行って誂えておいでな。」と紙入を出した。
「あなた。ほんと。」
「気味がわるいのか。心配するなよ。」
わたくしは、お雪が意外のよろこびに眼を見張った其顔を、永く忘れないようにじっと見詰めながら、紙入の中の紙幣を出して茶ぶ台の上に置いた。
戸を叩く音と共に主人の声がしたので、お雪は何か言いかけたのも、それなり黙って、伊達締の間に紙幣を隠す。