Japanische Klassiker mit Furigana
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ねこまち
猫町 他十七篇
萩原 朔太郎
Lesen Sie 猫町 他十七篇 (ねこまち) von 萩原 朔太郎 (はぎわらさくたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.483 Zeichen · 58 Bildschirme
けれどもただ一つ、部屋の真中の床の上へ、見知らぬ黒猫が坐り込んでいた。その黒猫は大きな瞳をして、じっと夫人をみつめていた。置物のように動かないで、永遠に静かな姿勢をしてうずくまっていた。
夫人は猫を飼っておかなかった。もちろんその黒猫は、彼女のいない留守の間に、他所から紛れ込んだものに相違なかった。がどこから這入って来たのだろう。留守の間の用心として、いつも扉は厳重に閉してあった。もちろん鍵をかけ、そしてすべての窓は錠を下して密閉されていた。夫人は少し疑い深く、部屋のあらゆる隅々を調べてみた。しかしどこにも決して、猫の這入るべき隙間はなかった。その部屋には煙突もなかったし、空気ぬきの穴もなかった。どんなによく調べてみても、猫の這入り得る箇所はないのである。
夫人はそこで考えた。留守の間に何人かが――おそらくは窃盗の目的で――一度この部屋をうかがい、窓の一部を開けたのである。猫はその時偶然にどこからか這入って来た。そしてその人物が、暫らくこの部屋で何事かをした後に、再度またもとのように、窓を閉めて帰って行った。猫はその時から、此所に閉じこめられているのであると。