Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
と、得心の色をなごませて、やっとその場は事なきをえたものだった。
「もし、足利さまの小殿」
みなが笑うときでも彼の顔だけが笑っていない。
――その主賓に気づいたのか、後ろの女性のひとりが銚子に白い手を持ち添えて高氏のわきへすりよっていた。
「小殿のおん眉には、まだ御酒も足らぬそうな。それとも、藤夜叉にお見恍れでございますか」
「藤夜叉」
「あれ、お目はどこに。ホホホホ、いま舞台で舞っている艶な田楽女のことですのに」
城仕えの者なら、馴々しく自分を“小殿”というような呼び方はしまい。さてはこの女たちは湖畔の遊女だろうか。高氏はすこし気がらくになった。
女は、高氏の曲もない飲みぶりに、その杯を愛惜んで、
「小殿、おながれを」
と媚びて、ねだッた。
そして、彼の浮かない横顔と舞台の方とを等分に見つつ。
「小殿も田楽はお好きなのでございましょう」
「む。きらいでもない」
「さして、お好きでも?」
「ま、半々か」
「ホホホホ。お気むずかしそうな。今宵は、そんな御不興顔はせぬものでございますよ」
「なぜ」
「わたくしたちの召されたのも、花夜叉のお城興行も、みな、小殿への御馳走とか」