Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(一) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 246.214 Zeichen · 495 Bildschirme
「いや、いかに好んでも、執権どののようにはなりたくないものだ。あのような田楽魔には」
はっと、自分の酔に驚いて。
「なにをいったかな、わしは、今」
「ホホホホ。べつに御仔細は」
「オ、それよ。いま舞台から消えた役者が花夜叉か」
「いえ、鷺夜叉でございました」
「新座はみな“夜叉名”を名のるのが風とみゆる」
「ええ。さいぜん小殿が呼吸もなされずお眼をこらしていた愛らしい田楽女も」
「あれは、藤夜叉とか」
「藤夜叉だけは、すぐお覚えなされましたのう」
「可憐だった。振り鼓を両の手にして舞った姿の」
「まだ十六とか聞きますが」
「よう知っておる」
「京、大和に次いでは、近江田楽。……ですから、ここの御領下には、田楽衆が一と村なしておりまする。親の花夜叉も、むすめの藤夜叉も、近江の衆でございますし」
「そなたもか。そなたの遊女名は」
「鳰といいまする」
「鳰ノ君か」
口にした杯を、彼は彼女の唇へ持ってゆきかけた。が、あなたの道誉と左近の眼が、チラとこっちを見た気がしたので、あわててそれは思いとまった。
舞台ではそのとき、老練な田楽法師が現れて、宇治拾遺から取った“ふぐり神楽”を演じて、満場の男女を笑殺していた。