Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
そうっと、出来るだけ静かに、彼は俊基のそばへ戻って来た。
「別条はございません。泣きつかれて、赤子もスヤスヤ病人のふところで寝ついたらしゅう見えまする」
「女は」
「ぎょっとして、木枕の顔をうごかした風でしたが」
「それきりか」
「はい。物も言いえぬ態の病人です。それにまだ、いとうら若い女房でもありますゆえ」
「思えば、気のどく。今日のことも、この俊基から起った騒ぎだ。これを見ても、人の世のことは、一波が万波。誰へどんな禍いがおよんで行くやら分らぬものだな」
「そこまで、因果のおよぶ果ての果てまで、いちいちお胸に傷んでいたら、国事にお尽くしもできますまいに」
「そうなのだ。わし自身とて、愛しい小右京とも別れ、公卿の栄耀もすてているゆえ、そこは眼をつぶっているが、しかし、何も知らぬ貧しい良民ほど憐れなるはないのう。……そうだ、持ち合わせの旅薬がある。これは典医の光雅から、麝香をふくむ貴薬とか申して贈ってくれたもの。これに少々だが金を添えて、女を慰めてやるがよい」
「え。これを縁もないあの夫婦へ」
「いや、一河の縁だ」
「それはさぞ、よろこびましょう。やがて女の良人も戻りましょうが、その前にお志を告げて、いまの怯えを慰めてやりましょうず」