Japanische Klassiker mit Furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.224 Zeichen · 269 Bildschirme
少年時代の幾年間は過ぎた。今から丁度十年ほど前、自分は木曜会の葵山渚山湖山なぞいう文学者と共に、やはり桜の花のさく或日の午後、あの五重の塔の下あたりの掛茶屋に休んだ。しかしその時には自分を始め誰一人霊廟を訪おうというものはなく、桜餅に渋茶を啜りながらの会話は如何にすれば、紅葉派全盛の文壇に対抗することが出来るだろうか。最少し具体的にいえばどうしたら『新小説』と『文芸倶楽部』の編輯者がわれわれの原稿を買うだろうかとの問題ばかりであった。われわれはあまりにトルストイの思想とゾラの法則を論ずるに忙しかった。それから三年ならずして意外なる運命は自分の身を遠い処へ運び去って、また四年五年の月日は過ぎた。再び帰って来たとき時勢は如何に著しく昨日と今日との間を隔離させていたであろう。
久しく別れた人たちに会おうとて、自分は高輪なる小波先生の文学会に赴くため始めて市中の電車に乗った。夕靄の中に暮れて行く外濠の景色を見尽して、内幸町から別の電車に乗換えた後も絶えず窓の外に眼を注いでいた。特徴のないしかも乱雑な人家つづきの街が突然尽きて、あたりが真暗になったかと思うと、自分は直様窓の外に縦横に入り乱れて立っている太い樹木を見た。