Japanische Klassiker mit Furigana
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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
Lesen Sie 親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選 (きく) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 67.486 Zeichen · 144 Bildschirme
突然、バーの時計を見て、ジャンは絶望の底に沈んだ。もう五分、もう一分あれば、言葉での理解の杜絶などはなんでもない。彼女の中にすでに存在してしまっている自分、自分の中にすでに存在してしまっている彼女を、たしかめあうことができようというのに。甘美な「愛」に貫かれて、ぼくたちはそれぞれの「個」から解放され、連繋しあうことができるかもしれないのに。――時計は、二本の針を垂直に12に重ねあおうとしていた。
「……失礼します」と、彼は悲しみにみちた声でいった。美女は、にっこりと頬をくぼませて黙礼して、便所へと立つ彼をながめた。もちろん彼女は、ぼくがこのまま消失してしまうなどとは、夢にも思っていないだろう。未練げに振り返ると、美女はテーブルに両手を置き、無心に白いハンカチを三角に畳んでいた。じつに繊細な、優美な指の動きだった。
ジャンが、トワレの扉を閉めた刹那だった。彼は一つの黒い光のようにその天井を突き抜け、屋根を抜けて、暗黒の天に向って昇天をはじめていた。なにか、すこしばかり早すぎ、すこしばかり遅すぎたような気持ちで、それは彼が去年の暮、青酸カリを口にあけた直後に感じた印象とまったく同じだった。