Japanische Klassiker mit Furigana
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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
Lesen Sie あなたも私も (あなたもわたしも) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 133.405 Zeichen · 263 Bildschirme
サト子は、パチンコ屋をとびだすと、駅口でタクシをひろった。
「飯島まで……急いで」
緑色の小型のタクシは、一ノ鳥居をくぐり、海岸に近い通りを走って行く。
脇窓から、月の光にきらめく海が見える。その海は砲台下の錆銀色の澗につづいている。
今日の今日くらい、人間の生死の問題が、身を切るような辛さで迫ってきたことはまだなかった。
「すっ飛べ」
心のなかで叫びながら、サト子は目をつぶる。
一秒一秒が、光の尾をひきながら流れ去るような思いがしていたが、現実は、やっと海岸橋を渡ったところだった。
「ねえ、急いでくれない」
運転手は、前窓を見つめながら、たずねた。
「なにか、あったんですか」
「いま、子供が生れるというさわぎ」
それで、グンとスピードが出る。
町並みの家々では、あけはなしたまま戸外で涼んでいるので、どの家も、奥までひと目に見とおされる。縁台でゆったりと団扇をつかっているこのひとたちは、暗い洞の奥で死にかけている青年と、なんの関係もないのだと思うと、なにか、はかない気がする。
海沿いの暗い道をタクシで飛ばし、そのうえで、なにをしようというのか。
洞の奥に、大震災のときに落盤したという、満潮の水のさわらない岩棚が一カ所ある。