Japanische Klassiker mit Furigana
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いなか、の、じけん
いなか、の、じけん
夢野 久作
Lesen Sie いなか、の、じけん von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 39.535 Zeichen · 78 Bildschirme
……たった一人で寝起きをしている村外れの茶屋の竈の前で、痩せ枯た小さな身体が虚空を掴んで悶絶していた。平生腰帯にしていた絹のボロボロの打ち紐が、皺だらけの首に三廻りほど捲かれて、ノドボトケの処で唐結びになったままシッカリと肉に喰い込んでいたが、その結び目の近まわりが血だらけになるほど掻きられている。しかし何も盗まれたもようは無く、外から人の這入った形跡も無い。法印さんの処から貰って帰ったお重詰めは、箸をつけないまま煎餅布団の枕元に置いてあった。貯金の通い帳は方々探しまわったあげく、竈の灰の下の落し穴から発見された。その遺産を受け継ぐべき婆さんのたった一人の娘と、その婿になっている電工夫は、目下東京に居るが、急報によって帰郷の途中である。婆さんの屍体は大学で解剖することになった……近来の怪事件……というので新聞に大きく出た。
お安婆さんの茶店は、鉄道の交叉点のガードの横から、海を見晴らしたところにあった。古ぼけた葭簀張りの下に、すこしばかりの駄菓子とラムネ。渋茶を煮出した真黒な土瓶。剥げた八寸膳の上に薄汚ない茶碗が七ツ八ツ……それでも夏は海から吹き通しだし、冬の日向きがよかったので、街道通いの行商人なぞがスッカリ狃染になっていた。