Japanische Klassiker mit Furigana
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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
Lesen Sie 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) von 佐藤 垢石 (さとうこうせき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 118.470 Zeichen · 244 Bildschirme
そのことがあってから後、賢彌は四、五回ほど、門のそとを過ぎ往くあの美しい女の横顔を、夕景のなかに見たのである。しかし、女は一度も門のうちへ正面を向けたことがない。いつも横顔のまま、門前を過ぎて行く。
十一月に入ってからは、夕方がくると庭へも門の廂にも佇まぬことにした。幻奇の予感が、賢彌に濃く漂いはじめたからである。しかし、この妖しい出來ごとについては、固く口をつぐんで祖母にも母にも一言も語らなかった。
九
晴れた空に星が冴えて、木枯らしが水の面に、はらはらと落ち葉を降らせてくる夜である。赤谷川の相俣の淵は、両岸に百尺あまりの絶壁が屏風のように衝っ立ち、日中でも澹暗が漲っている境地であるが、やがて絶壁と絶壁が相対する截れ間から、二十日ばかりの月が寒い光を水際の巌の上へさし込んできた。
月の光を浴びて、巌の上へ映し出されたのは、一頭の巨猿であった。万太郎猿が、病める相俣の淵の岩魚を見舞いにきていたのだ。
上越国境を、東から西へ縦走する三国山脈、この山脈の東端から南会津の方へ向かって続く万太郎山、谷川岳、茂倉岳、朝日岳、兎岳、牛ヶ岳、八海山、中の岳、駒ヶ岳、銀山平など、奥上州の裏側に並ぶ越後国南魚沼の山地には、昔から野猿の大群が棲んでいた。