Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
君が覚えていることと、おれが覚えていることは、どこか食い違っている。それでよく安心して生きて行けるもんだな」
「僕がですか?」
「いや。君だけじゃなく、誰もがだ」
彼はごまかした。
「もっとも疑い始めると、これは切りがないもんでねえ。忘れたり、記憶からしめ出されたり、思い違えたまま安心したり、その方がずっと生きいいんだろう。古井戸をのぞいたって、仕様がないやね。やくたいもない苔が生えているだけで――」
「それ、皮肉ですか?」
矢木は眼をきらきらさせて、反問した。
夏のある暑い日の午後、彼はその運転手に再会した。もちろん彼はそれと知らなかったし、向うもこちらに気付いていなかった。彼は目白付近でタクシーを呼びとめて乗り込んだ。自宅の方に行く道順を説明しながら、ハンカチで額や腕の汗を拭いた。車は動き出した。動き出してすぐ、運転手が言った。
「旦那。あっしを覚えてるかね?」
「え?」
汗を拭きやめて、彼は運転手の後頭部を見た。首筋にも汗はふつふつとあふれていた。
「覚えているだろうね。今の道順で、あっしは思い出したんだ。あれは五月の初め頃だったかな」
「ああ、あの時の――」