Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
後頭部からバックミラーに視線を転じた時、彼は卒然として思い起した。
「僕を途中で降ろした運転手さんだね」
「降ろしただけじゃないよ」
運転手の口調は険を帯びた。
「おれはあやまりに行かされたんだぜ。一日の稼ぎを棒に振ってさ」
「そうだったね。常務とかいう肥ったおっさんと」
じとじととした背中を座席から引き離しながら、彼は答えた。
「しかし、僕はあやまりに来いとは言わなかった筈だよ。そちらが勝手に来ただけだ」
「あんな電話をかけて来りゃ、常務だって放っては置けないさ」
「常務は、元気かね?」
「あれ、死んだよ」
「交通事故か?」
「いや。病気でだ」
ちょっとの間、会話が跡絶えた。交差点の赤信号で車は停った。タオルで首をごしごし拭いながら、運転手が言った。
「あの手土産も、あっしが自腹を切ったんだよ。うまかっただろう」
「そうかね」
彼は別のことを考えていた。
「あの晩、僕たちを新宿で乗せた晩さ、あの時、雨が降ってたかね?」
「雨? 何を言ってんですかい」
運転手はせせら笑った。
「雨のことなんか話してないよ。菓子折のことだ。ウルサ型らしいから、一番上等のを買えって、常務が言うもんで――」