Japanische Klassiker mit Furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lesen Sie ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.411 Zeichen · 263 Bildschirme
しかしカスミ網に引っかかった小鳥を、私が逃がしてやったことは、三四度ある。その啼き声がうるさかったからだ。からまった網目を細い脚や趾から外してやると、私の掌を力いっぱい蹴りつけて、小鳥は空へ飛んでゆく。掌に筋が残るほど、その力は強い。そこにわけのわからない、快感のようなものがある。しかしそれを味わうために、わざわざ小鳥を逃がしてやるような手数は、私もとらなかった。
そんな時の私を、隣家の夫妻は、見て見ぬふりしている気配がある。ことさらに背をむけて、そのくせ私の挙動を、全神経でうかがっている。そんな感じである。その気持は私にも判らないことはない。ある笑いとともに、うすうす判る。ことに主人の古畑大八郎氏はそうだ。大八郎は六十歳位の、骨張った感じの老人だが、まだ腰はしゃんと伸びている。しかし顔色はひどく悪く、土色をしている。そして右の手の、手首から先がない。空襲の爆弾で、もぎとられたということである。それも古畑から直接聞いたのではなく、はたから聞いた話だ。私は古畑氏とまだ一度も、口を利いたことがない。話し合うような用事がないせいでもある。古畑の眼は四角な感じの眼で、ブリキの貯金箱の差入口を連想させる。