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Japanische Klassiker mit Furigana

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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

Lesen Sie 似而非物語 (えせものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 31.817 Zeichen · 64 Bildschirme

Aozora Bunko

杢助はそっちを見ようともしなかった。

そのとき先客の老人は湯に浸っていた。娘たちが去ると、杢助もすぐ湯に入ったが、老人の方には眼も向けず、むろん挨拶もしなかった。老人の方が少し脇へ身をずらせた。杢助は平然として、まるでそこにいるのは自分ひとりであるかのように、顎のところまで湯に浸り、手拭で頸のまわりを擦りながら、おもむろにあたりを眺めやって、独り言を云った。

「あの沢はくん(崩れ)だだな、きっと木を伐りすぎたにちげえねえ」

狭い谷間だから展望はきかなかった。白山谷も見えない、手取川の瀬の音も、眼の前にある谿流の音が高いので聞えなかった。谿流に沿って道があり、それはこの上の杉谷を経て、白山の登山道へつながるのであった。向うは傾斜の急な山腹で、杉林がずっと上のほうまで繁っているが、ひとところ大きく崩れて、赭土の剥きだしになっている処があった。

「その方は牛窪の者か」

先客の老人が云った。呼びかけずにはいられなかったらしい。杢助は「そうだよ」と答えたまま、やはり谷の向うを眺めていた。老人は黒くて濃い眉をしていた。髪毛はもう灰色であるが、眉は黒く、とびぬけて濃かった。