Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりとかぜとゆめ
光と風と夢
Lesen Sie 光と風と夢 (ひかりとかぜとゆめ) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 79.032 Zeichen · 158 Bildschirme
甘蔗の葉摺の外、何も聞えなかった。私は自分の短い影を見ながら歩いていた。かなり長いこと、歩いた。ふと、妙なことが起った。私が、私に聞いたのだ。俺は誰だと。名前なんか符号に過ぎない。一体、お前は何者だ? この熱帯の白い道に痩せ衰えた影を落して、とぼとぼと歩み行くお前は? 水の如く地上に来り、やがて風の如くに去り行くであろう汝、名無き者は?
俳優の魂が身体を抜出し、見物席に腰を下して、舞台の自分を眺めているような工合であった。魂が、其の抜けがらに聞いている。お前は誰だと。そして執拗にじろじろ睨めまわしている。私はぞっとした。私は眩暈を感じて倒れかかり、危く近所の土人の家に辿りつき、休ませて貰った。
こんな虚脱の瞬間は、私の習慣の中には無い。幼い頃一時私を悩ましたことのある永遠の謎「我の意識」への疑問が、長い潜伏期の後、突然こんな発作となって再び襲って来ようとは。
生命力の衰退であろうか? しかし近頃は、二三ヶ月前に比べて身体の調子もずっと良いのだ。気分の波の高低はかなりあるにしても、精神の活気も大分取戻しているのだ。風景などを眺めても、近頃は、強烈な其の色彩に、始めて南海を見た時のような魅力を(誰でも三四年熱帯に住めば、それを失うものだ)再び感じている位だ。