Japanische Klassiker mit Furigana
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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
Lesen Sie 入江のほとり (いりえのほとり) von 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 25.430 Zeichen · 50 Bildschirme
「ああこれか」と独言を言って、捜し当てた英字の綴りを記憶に深く刻んだ。ついでにスヰッチとかタングステンとかいう文字を捜したが、それはついに見つからなかった。
広い机の上には、小学校の教師用の教科書が二三冊あって、その他には「英語世界」や英文の世界歴史や、英文典など、英語研究の書籍が乱雑に置かれている。洋紙のノートブックも手許に備えられている。彼れは夕方学校から帰ると、夜の更けるまで、めったに机のそばを離れないで、英語の独学に耽るか、考えごとに沈んで、四年五年の月日を送ってきた。手足が冷えると二階か階下かの炬燵の空いた座を見つけて、そっと温まりに行くが、かつて家族に向って話をしかけたことがなかった。すぐ下の弟の良吉とは、一時隣国の山間の小学校でいっしょに教鞭を執ったことがあったので、多少打融けた話もしていたのだったが、それさえ年を経るとともに、隔たりが増して、この冬の休暇には親身な話はただ一度もしないで過した。
でも、良吉が傍で洗濯物や乾魚を小さい行李に収めて明日の出立の用意をしかけると、辰男も書物を措いてしばしばその方を顧みた。
七八年前の冬休みに、兎を一匹需めて、弟と交互に担いで、勤先から帰省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。