Japanische Klassiker mit Furigana
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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
Lesen Sie 南方郵信 (なんぽうゆうしん) von 中村 地平 (なかむらちへい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.899 Zeichen · 42 Bildschirme
裏庭には若い衆は誰も居らず、源吉爺さんが独り椋の樹の根もとにかがみこんでいた。丁度、てぐす糸を毛虫からひきぬいている時の恰好である。しかし、もちろん今は青葉の季節ではない。黄ばんだ枯れ葉が、風ふくたびに空たかくまいあがっては、爺さんのしなびた顔に散りかかっている。
「爺さん。源吉爺さん」
三太は呼びかけた。
しかし、爺さんはうつむいたまま、返事もしない。眠り呆けたのにちがいない、と思って三太は爺さんの肩に手をかけてゆすぶった。すると、爺さんは上体をがっくりと土の上にうつぶせになった。死んでいるのであった!
びっくりして三太は少時は声もなく、爺さんを見つめていたが、間もなく大きな声で泣きだした。三太の泣き声もとどかないような、高い高い紫陽花いろの空には、椋の梢がさむ風にゆすぶられながら、聳えている。そして、その梢を中心として、一羽の鳶が、翼を動かさないで、大きな円弧を描きながら、ゆるやかにとんでいる。
その鳶の高くはるかな視界のなかには、三太がぽつねんと佇んでいる椎の樹の多い部落や、対岸の静かな町や、それらを包んでいる広い広い田畑や、そのなかを貫通しているO川や、遠い山なみやが一望のなかに眺めわたされる。