Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
ナポレオン戦役の時、ロシア軍の捕虜になったフランスの一士官が、憂悶のあまり数学の研究に没頭していたという話は、妙に彼の心に触れるものがあった。……ふと、そこへ、せかせかと清二が戻って来た。何かよほど興奮しているらしいことが、顔つきに現れていた。
「兄貴はまだ帰らぬか」
「まだらしいな」正三はぼんやり応えた。相変らず、順一は留守がちのことが多く、高子との紛争も、その後どうなっているのか、第三者には把めないのであった。
「ぐずぐずしてはいられないぞ」清二は怒気を帯びた声で話しだした。「外へ行って見て来るといい。竹屋町の通りも平田屋町辺もみんな取払われてしまったぞ。被服支廠もいよいよ疎開だ」
「ふん、そういうことになったのか。してみると、広島は東京よりまず三月ほど立遅れていたわけだね」正三が何の意味もなくそんなことを呟くと、
「それだけ広島が遅れていたのは有難いと思わねばならぬではないか」と清二は眼をまじまじさせてなおも硬い表情をしていた。
……大勢の子供を抱えた清二の家は、近頃は次から次へとごったかえす要件で紛糾していた。どの部屋にも疎開の衣類が跳繰りだされ、それに二人の子供は集団疎開に加わって近く出発することになっていたので、その準備だけでも大変だった。