Japanische Klassiker mit Furigana
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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
Lesen Sie 夏の花・心願の国 (なつのはな) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 152.816 Zeichen · 310 Bildschirme
今、目には見えないが針のようなものがこの部屋のなかに降りそそいでくるようだった。
……ずっと以前から彼も妻も「死」についてはお互によく不思議そうな嘆きをもって話しあっていた。人間の最後の意識が杜絶える瞬間のことを殆ど目の前に見るように想像さえしていた。少女の頃、一度危篤に瀕したことのある妻は、その時見た数限りない花の幻の美しかったことをよく話した。それから妻は入院中の体験から死んでゆく人のうめき声も知っていた。それは、まるで可哀相な動物が夢でうなされているような声だ、と妻は云っていた。彼も「死」の幻影には絶えず脅かされていた。が、今の今、眼の前に苦しみだしている妻が死に吹き攫われてゆくのかどうか、彼にはまだわからなかった。「死」が彼よりさきに妻のなかを通過してゆくとは、昔から殆ど信じられないことだったのだ。だが、たとえ今「死」が妻に訪れて来たとしても、眼の前にある苦しみの彼方に妻はもう一つ別の美しい死を招きよせるかもしれない。それは日頃から彼女の底にうっすらと感じられるものだった。彼も今、最も美しいものの訪れを烈しく祈った。…………
胃にはもう何も残っていそうもないのに、妻はまだ苦しみつづけた。