Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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なつむしあんどん

夏虫行燈

吉川 英治

Lesen Sie 夏虫行燈 (なつむしあんどん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.200 Zeichen · 37 Bildschirme

Aozora Bunko

と、身をひらいた。

刃のような彼の平掌が、彼女の手元を強くはたいた。

懐剣は、草むらへ飛び、彼女の体は、平四郎に手頸をつかまれて、前へ泳ぎかけた。

『其女の惚れた男とは、少し骨の筋がちがうぞ。――介錯人の使命をうけたのを幸に、甚三郎の細首を落して無念をはらし、明け方迄には、他国へ逐電と考えていたが、もうこう口を割ったからには、お城へも戻れまい。女を討ったと云われては、末代まで、高安平四郎の恥になるから、生命だけは助けてくれる。はやく城内へ戻って、好きな甚三郎でも、助太刀に連れて来い。尋常の勝負なら、青沼の光沢寺で待っていてやる』

『……オオ。云やったな! ……。では慥に、紛失物の下手人は』

『もうここ迄云ったら、誰の仕業か、推量がつくだろう。――早く、御城内へ訴えに馳けて行け。九刻を過ぎると、間にあわぬぞ』

云いながら、平四郎は、彼女の体を、勢よく草の中へ突き放した。

――女の力! 及ばぬ腕! 口惜しさに、彼女はいちど、わっとその儘、泣き崩れたが、

『ま! まてッ――』

叫んで、再び起ちかけた時は、もう平四郎の姿は、草露の光る彼方へ、跳る魔形のように、馳け去っていた。