Japanische Klassiker mit Furigana
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やまとじ・しなのじ
大和路・信濃路
堀 辰雄
Lesen Sie 大和路・信濃路 (やまとじ・しなのじ) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 58.165 Zeichen · 115 Bildschirme
悲壮のようなものはいささかも感ぜられなかった。寒さだって大したことはない。むしろ、雪のなかは温かで、なんのもの音もなく、非常に平和だ。そう、愉しいといったほうがいい位だ。橇の中にいて、小さな幌の穴から、空を見あげていると、無数の細かい雪がしっきりなしに、いかにも愉しげな急速度でもって落ちてくる。そうやってなんの音も立てずに空から落ちてくる小さな雪をじいっと見入っていると、その愉しげな雪の速さはいよいよ調子づいてくるようで、しまいにはどこか空の奥のほうでもって、何かごおっという微妙な音といっしょになってそれが絶えず涌いているような幻覚さえおこってくるようだ。
大きな壺に耳をあてていると、その壺の底のほうからごおっといって無数の音響が絶えまなしに涌きあがっている。――ちょうどああいった工合に何か愉しくて愉しくてならないように、無数の小さな雪が空の奥のほうで微かにごおっという音を立てながら絶えず涌いているような気がせられるのである。僕はいつまでも一ところからじっと、絶えず落ちてくる雪を見ている中に、そんな幻覚的な気もちにさえなり出していたが、急にまた坂にさしかかったと見えて橇ががたんがたん揺れだしたので、思わず自分自身に立ち返えされてしまっていた。