Japanische Klassiker mit Furigana
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てんさいけいまい
天才兄妹
野村 胡堂
Lesen Sie 天才兄妹 (てんさいけいまい) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.891 Zeichen · 20 Bildschirme
三
汽車が上野へ着いたのは、もう夜半近い頃でした。兄妹はベーカーに目礼して別れを告げ、ベーカーも亦物言い度気な眼をしばたたきましたが、何を憚るのか、そのままスタスタと改札口の人ごみの中に姿を隠してしまいました。
三
「お兄様、今日はまあ何うなすったの?」
信子は片手に楽譜を持ったまま、追いすがるように斯う申しました。
翌る日の午後二時、立花幾久雄、信子兄妹の演奏会が、漸くその第一部を了って、客席は潮の寄せるようにざわめきますが、舞台裏は薄気味悪く静まり返って、ステージを退く兄妹の足音だけが、洞穴の中を行くように、空ろな反響を伝えました。
「解らん、俺には何も彼も解らん」
狭い演奏者休憩室の椅子に、投り出されたように腰を下した幾久雄の唇は、雁皮紙のように慄えて、その眼は無念の涙さえ含んで居りました。
「お兄様、何うしたのでしょう、どんな悪いヴァイオリンだって、あんな音は出ない事よ、あんなストラドヴァリウスってあるものでしょうか」
「解らん、薩張り見当も付かない、――俺は上った覚えもないし、たった一と晩で、こんなに下手になる筈もない」
新帰朝の天才提琴家という振れこみで、帝劇一杯に客を呼んで、この日の演奏会は、まるで予想もしなかった不出来で、三階の奥の方には、口笛を吹く客さえある始末でした。