Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
と、あのひとの名前を呼んでから(典獄がうっかりこういう呼び方をしたのはあのひとだけです)「おそくなってすみませんが、――それにお腹も空いていらっしゃるでしょうが何しろ時間に余裕がないので」と申しますと、あのひとは全身をがたがたと顫わせながら、ほとんどききとれぬほどの声でうめくように何ごとかをおっしゃいました。そのことばはわたくしにもよくわかりませんでしたが、「やっぱり駄目ですか?」というような意味であったと思います。そういう声のひびきさえもやっと咽喉をとおりぬけたというかんじでございました。しかし、あのひとはすぐに平静をとりもどされたように見うけました。
「致し方がありません」
と、典獄がすぐ冷やかな態度で申しますと、あのひとはわたくしの方を向いて、
「――今はじめてわかりました。あなたにはわかるでしょう、わたしがおそれていたのは死ぬことではなくて、助かることだったということを、――長いあいだわたしには助かるという自信があったので死ぬ工夫がつかなかったのです」という意味のことを、早口に申されました。
「わたしどもには何もわかりません、唯、おあきらめになることが何よりも肝要だと存じます」