Japanische Klassiker mit Furigana
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おもいだすことなど
思い出す事など
Lesen Sie 思い出す事など (おもいだすことなど) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.003 Zeichen · 113 Bildschirme
ありがたい事に室の廂と、向うの三階の屋根の間に、青い空が見えた。その空が秋の露に洗われつつしだいに高くなる時節であった。余は黙ってこの空を見つめるのを日課のようにした。何事もない、また何物もないこの大空は、その静かな影を傾むけてことごとく余の心に映じた。そうして余の心にも何事もなかった。また何物もなかった。透明な二つのものがぴたりと合った。合って自分に残るのは、縹緲とでも形容してよい気分であった。
そのうち穏かな心の隅が、いつか薄く暈されて、そこを照らす意識の色が微かになった。すると、ヴェイルに似た靄が軽く全面に向って万遍なく展びて来た。そうして総体の意識がどこもかしこも稀薄になった。それは普通の夢のように濃いものではなかった。尋常の自覚のように混雑したものでもなかった。またその中間に横わる重い影でもなかった。魂が身体を抜けると云ってはすでに語弊がある。霊が細かい神経の末端にまで行き亘って、泥でできた肉体の内部を、軽く清くすると共に、官能の実覚から杳かに遠からしめた状態であった。余は余の周囲に何事が起りつつあるかを自覚した。同時にその自覚が窈窕として地の臭を帯びぬ一種特別のものであると云う事を知った。