Japanische Klassiker mit Furigana
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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
Lesen Sie 思い違い物語 (おもいちがいものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 44.840 Zeichen · 88 Bildschirme
「私が取って来ます、私が」
泰三はあいそ笑いをして云った。
「釣瓶の茶碗ですね、二階のあのため塗の文庫の中にあるんでしょう」
「まま、待て、待て泰三」
「すぐです、どうか坐っていて下さい」泰三は廊下を駆けだしながら、「――ちゃんと知ってるんですから、手間はかかりません、すぐ持って来ますから」
「待って呉れ泰三」右衛門もあとから走りだした、「――おれが取りにゆく、構わないで呉れ、頼む、どうかおまえは、……ええ待て、待てといったら待てこの野郎」
とうとう喚きだした。なにしろ大の男が二人どたばた駆けたり喚いたりするので、茶室からは妻女が出て来るし、家人たちもいかなる異変出来かと思い、おっ取り刀で、――女性たちは擂粉木とか鋏とか箒などを持って、――集まって来た。
右衛門はこれを見てさすがに駆けるのを中止した。
「いや騒ぐな、なんでもない」息を喘ませながら、「――なんでもないんだ、騒ぐことは少しもないんだ、いいからさがっておれ」
騒いだのは自分であるにも拘らず、彼はこう云って、おもむろに二階へあがろうとした。むろん泰三はとっくに上へあがっていた、今じぶんは文庫の中をひっ掻きまわしていることだろう。