Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
ばしゃ
愛の挨拶・馬車・純粋小説論
横光 利一
Lesen Sie 愛の挨拶・馬車・純粋小説論 (ばしゃ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 40.699 Zeichen · 78 Bildschirme
――
多木の家の山中の温泉は殆ど歯朶類の中に埋れているといっても良いほど、山は一面に鋸の歯のように鋭い青葉でもって満ちていて、足で踏む苔の下からは、ときどきじっとりと水が指の間へにじむような、自然な風景にとり包まれた穏やかなところであった。湯水は絶えず底の岩の裂け目から出て来て、そのまま、そこで溜り込んでいるものだから、村人たちばかりが自由に行ける至極のんびりとした温泉であった。由良は着くなり多木の家の離れへ入れられたばかりではなく、温泉そのものがそんなにも自然の風景からばかりなっているのでもう初めから大満足で、これなら頭もしばらくすれば必ず療るであろうと喜んだ。彼は朝起きると一回湯につかり、午後一回、それからたまに寝る前に一回と初めは三回ほどにして、退屈すれば周囲の山や野の中を歩き廻ることにした。
着いて二日目の午後も、彼は前日のようにたけなす草むらの中の山径を歩いてみた。すると、彼の行く手で木の幹に添ってひとりじっと立っていた見も知らぬ男が、由良の顔を見るといきなり黙って静に鄭重なお辞儀をし始めた。彼も知らない男とはいえ、そんなにされると勢いお辞儀を返さねばならぬので会釈をすると、その男の最初のお辞儀はそのまま上らずにどこまでも下へ下へと下っていった。