Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
庭の柿の木の下で、落ち潰れて久しくたった熟柿の皮から、白い毛に似た黴が長く突っ立って生えている。
「とにかく、僕らは足を奪られるよりも、頭を奪られているんだからなア。始末にいかん。――元気を出そう。」
矢代は庭の中の一点の賑やかさを誇っている、狂い咲きの躑躅の花に視線を移して云ったが、晩秋の冴えた日暮がますます腹の底から沁んで来た。
家を出てから二人は坂路を下っていった。坂の降り口の所で、塩野は自動電話のボックスを見付けると矢代を外に残して中へ入った。どこかの料亭へ電話をかけるのか、それとも千鶴子にか、ただ「一寸待って」と声をかけたままだったが、外から見える彼の顔は、何んとなく千鶴子の兄にかけているらしい、打ち解けた笑顔をしていた。
矢代は一度ちらりと中の塩野を見ただけで、出て来る電話の主が気がかりなだけに、今は話の内容に気をつけるのがいやだった。彼はそこに手ごろに見付かった近くの煙草屋へ入り、余分の煙草を買った。パリで千鶴子と別れる際、帰ればすぐ会おうとあれほど約束しておいたに拘らず、一ヵ月以上にもなり、それも塩野に間に立たれて初めて会おうとする虫の好さを思うと、向うにしても、彼の電話のままにはやすやす出かけて来ることもあるまいとも思われた。