Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
お房の枕頭(まくらもと)には黒い布を掛けて、光を遮(さえぎ)るようにしてあった。お房は半分夢中で、下口唇を突出すようにして、苦しそうな息づかいをした。胸が痛み、頭が痛むと言って、母に叩(たた)かせたが、もっと元気に叩いてくれなどと言って、どうかすると掛けてあるショウルを撥飛(はねとば)した。
日の出が待遠しかった。私は窓のところへ行って見た。庭はまだ薄暗く、木立の下あたりは殊(こと)に暗かったが、やがて青白い光が朝の空に映り始めた。梢(こずえ)に風のあることが分って来た。テニスの網も白く分って来た。この静かな庭の方へ、丁度私達の居る病室と並行に突出した建築物(たてもの)があって、その石階(いしだん)の鉄の欄(てすり)までも分って来た。赤く寂しい電燈が向うの病室の廊下にも見える。顔を洗いに行く人も見える。お菊の亡くなる時に世話をしてくれた若い看護婦も通る。
「母さん――母さん――馬鹿、馬鹿――」
と復たお房が始めた。「母さん、あのねえ……」などと言いかけるかと思うと消えて了う。
上野の鐘は不忍の池に響いて聞えた。朝だ。ホッと私達は溜息(ためいき)を吐(つ)いた。