Japanische Klassiker mit Furigana
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ますおとし
枡落し
山本 周五郎
Lesen Sie 枡落し (ますおとし) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.765 Zeichen · 67 Bildschirme
千太郎のことなら役人に願って、ちゃんと離別させてみせるから、とも云った。むろんおみきにそんな気は爪の尖ほどもなかった。男と聞いただけでも、身ぶるいが出るくらいだったのだ。役人がどうしようと、たとえ人別から抜いてしまおうと、千太郎はおみきからはなれはしないだろう。こっちへ移って来てそこそこ五年、あの出来事があってお繩になるまで、千太郎は五日おき十日おきというふうにやって来て、金がなければ物、それも満足な物がなければ、襖障子を蹴やぶったり、貧しい家具を打ち毀したりして暴れた。
そして千太郎が人殺し兇状で牢へ入れられると、近所の人たちの母子を見る眼が、冷やかで嘲笑的な、軽侮するようなものに変った。それまで親しくつきあい、同情したり親切にしてくれたりした人たちがである。これが世の中だ、これが人の心というものだ。おみきは自分の血の一滴一滴でそう感じた。
「おうめにこのことをよく云っておかなければならない」とおみきは呟く、「芳っさんはいい人らしい、十年以上も知っているけれど、働き者で、まじめで、悪い噂なんぞこれっぽっちもない、伊予巴では誰にも負けない職人になったのに、いまでも小僧のように生地を自分で取りに来る、――うちの人もぐれだすまでは同じようだった、ぐれだすまえまではね」