Japanische Klassiker mit Furigana
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ますおとし
枡落し
山本 周五郎
Lesen Sie 枡落し (ますおとし) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.765 Zeichen · 67 Bildschirme
にでかけるからめしは喰べていないし、しじみをとるあいだにも、腹はぐうぐう鳴るほどへっていた」
そのまま売りにいってこいと云われたとき、彼は空腹で眼がまわりそうだった。しかし母親にさからうことは絶対にできなかった。彼は頬冠りをし直してでかけた。まだ霜柱の立っている道を、小一里もゆかなければ街道へは出られない、畑にさえ一人の百姓の姿も見えなかった。空腹と寒さとで手も足も痺れてしまい、涙が頬を濡らした。
「お父っつぁん、っておらあ泣きながら云ったもんだ、あれはおいらの本当のおっ母さんかい、ってね」芳造は微笑しようとしたらしいが、唇のあいだから、丈夫そうな歯がちらっと覗いただけであった、「――まだ七つかそこいらの子供のことだ、皮肉でも恨めしさでもない、おれは本気で、死んだおやじにそうきかずにはいられなかった」
蜆が売れ残ったときのことは、思いだすのもいやだ、と彼は云った。食事の差別や、酒に酔った母親のだらしなさも、いまになって思えばいちがいに非難する気はない。世間をよく見てみれば、それほど珍らしいことではないからだ。けれど、どうしてもがまんのならないことが起こった。