Japanische Klassiker mit Furigana
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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme
「田舎者は、お前、稀に東京などへ出て来ると、よく寝られすか。車の音がもう終宵耳について」
こんなことを言って、お母さんは早や起出した。
他人に仕える一切の行いが奉公なら、捨吉の奉公は彼が極く幼い頃から始まった。大都会を見るのを楽みに、九つの歳に両親の膝下を離れて来た日から、既にその奉公が始まった。上京して一年ばかりは姉の夫の家の世話になり、そこから小学校に通ったが、姉夫婦の帰国後は全く他人の中に育てられたのである。兄等のはからいで、田辺の家に少年の身を寄せるように成ってからも、注意深い家族の人達の監督を受け、学問するかたわら都会の行儀作法を見習い、言葉づかいを覚え、田辺の小父さんや姉さんやそれからおばあさんに仕えることを自分の修業と心得て来た。その頃、兄はまだ郷里の方で、彼の許へ手紙を寄せ、家計もなかなか楽ではないぞ、その中で貴様に学問させるのだから貴様もその積りでシッカリやってくれとよく言ってよこした。子供心にも彼は感激の涙なしにそういう手紙を読めなかった。艱難も、不自由も、彼にはそれが当然のことのように思われた。どうかして人の機嫌を損ねないように、そして自分を幸福にするように、とは一日も彼の念頭を離れなかった。