Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
その声が現実に聞えるように思って、甲斐は抱いている腕に力をこめた。宇乃はぴったりと身を押しつけ、甲斐の腕へ頬をすりよせた。甲斐は深く息を吸いこみ、仰向いて、その息をそっと、静かに吐きだした。
「おじさま」と宇乃が云った、抱かれているために、その声はなにかを口に含んでいるような、こもった響きをもっていた、「こんど江戸へいらっしゃるときに、お供をしていってはいけませんでしょうか」
「船岡がいやになったか」
「いいえ、お側にいたいだけですの」
「むずかしいな」と甲斐は云った、「むずかしいが、考えておこう」
「こんどはいけませんわね」
「さあ」と甲斐は抱いている手を放した、「もういって寝るとしよう」
宇乃は黙っていた。
「わかっているだろう、宇乃」甲斐は囁くように云った、「いつか青根の宿で云った、私はいつもおまえといっしょにいる、こちらにいても江戸へいっても、私はいつも宇乃といっしょだ、――覚えているね」
宇乃が「はい」と口の中で答えた。
甲斐は暫く黙っていた。なにか云い足りないことがあって、それを思いだそうとするようであったが、宇乃にはもう言葉などの必要はない、ということを感じたのであろう、いつもの穏やかな声にかえって、歩きだしながら云った。