Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
と云いかけて、甲斐はかなりながいこと黙っていたが、やがて眼をあげ、部屋の向うの暗い一点をみつめながら、そっと自分に頷いた、「――そうだ、待つことはない、直接の助言があるなしにかかわらず、京へ訴えた、という事実だけでも役に立つ、喜兵衛の帰りを待つまでもなく、事態の動きによっては一と当て当てることにしよう、一と当て、――酒井か、板倉か」
まもなく、甲斐は机の上を片づけて立った。顔を洗って寝ようと思い、襖をあけると、次の間に成瀬久馬がいた。灯のない部屋の暗がりに端坐しており、甲斐を見ると手を突いて、御用でございますかと云った。
「どうしたのだ」と甲斐は咎めた、「もう夜半すぎだというのになにをしている」
久馬は黙って平伏した。
「宿直はならぬと云ってある、誰かに申しつけられたのか」と甲斐は訊いた、「誰に申しつけられた、惣左衛門か」
「一存でございます」と久馬が答えた。
久馬も世評に昏まされているのだ、と甲斐は思った。家中に自分を覘っている者がある、そういう噂は正月ごろから聞いていた。原田ではまえから宿直を禁じて来たが、その噂が弘まると、家老の堀内惣左衛門が、ひそかに宿直番を設けようとした。