Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
甲斐は黙っていた。六左衛門は甲斐の顔をそっと見た。なにか云いたそうな眼つきであったが、黙っている甲斐の、無表情な横顔を見ると、溜息をついて、首を横に振った。
「繰り言でございますな」と六左衛門は云った、「せっかく朝粥のお招きを受けましても、酒は飲めず、顔ぶれが変って話す相手もなく、以前のことがなつかしく思いだされるばかりです、私もすっかり年寄くさくなってしまいました」
六左衛門は帰るときに、こんな腰折れを詠んだが、あとでお笑い草に読み捨ててもらいたい、と云って、一枚の短冊を渡した。甲斐は六左衛門が去ってから、それを読んだ。
身につもる老な忘れそ春は花秋はもみじのもろく散る世に
そういう歌であった。
甲斐はまもなく、客に「中座をする」と断わって席を立った。堀内惣左衛門が、船岡から急使が来た、と耳うちをしたからである。使いは辻村平六で、甲斐は居間で彼に会った。平六は早駕籠で来たといい、すっかり憔悴してみえた。
「伊東七十郎どのが死罪になりました」と平六は乾いた声で云った。
甲斐は息を詰め、手をあげて、平六の次の言葉を制し、彼の差出す文箱を受取ると、埃をながして来い、と云った。