Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.078 Zeichen · 285 Bildschirme
だが、その汚濁や卑賤の中から、彼は自分にふさわしい生きかたを選んだ。いま、彼は自分の選び取った道に立って、自分を生かすために、生活を始めた。
――人間だ。
彼は解き放されたのだ、と甲斐は思った。新八は安からぬ代価を払ったが、「主従」という関係や、階級や、武家の義理や道徳から解き放され、「自分」を手に入れたのである。自分の好むもののために生き、そのために死ぬことができる。
――そのほうが人間らしくはないか。
少なくとも、新八のためにはこのほうがふさわしく、人間らしい。芸を伸ばしてゆくには、多くの苦しみや貧困を経験することだろう。しかし、それは他の人のためではなく、彼自身のためである。
――結局、彼がいちばん仕合せかもしれない。
甲斐はそう思いながら、朝からの暗くふさがれた気持が、少しずつ軽くなってゆくのを感じ、盃を取って、おくみに酌をさせた。
「宮本節というのだそうです」とおくみが囁いた。
新八は三味線を取りあげ、おみやはずっと脇のほうへさがった。調子を二三度こころみてから、静かに新八はうたいだした。
「――さるほどに、百夜をかよう少将の、笠にふる雪、つもる雪、恋の重さにかたぶきて、涙のつららとけやらぬ、君の心はうきよ河、渡るこなたは深草の」