Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme
――昼の余温が残っていて、そこはまだ暖かく、宿の者はかわらよもぎをむしり取って、蚊いぶしをした。あたりはすっかりたそがれて、川のかなたに船岡の町の灯が見えていた。砦山は黒く、原田家の館のある丘は、ぼうと宵闇に溶けて、もうそれと判別がつかなかった。
「河鹿の声がしないようだな」と七十郎が宿の者にきいた。
宿の者は、月はじめまでは鳴いていたが、と答えた。去年の秋、上流の濁川が荒れて、このあたりの川床もだいぶ変った。そのために河鹿も少ないのかもしれない、と宿の者は云った。
「万右衛門、遠慮なくかさねろ」と七十郎は宿の者の話すのを聞きながして、瓢の酒を万右衛門にすすめた。かなりな大盃で、万右衛門は七兵衛の顔色をうかがいながら、むっつりと、黙って飲んだ。
「おまえの手柄は聞いているぞ」と七十郎は云った、「三年まえの七月十九日の夜だ」
「その話しはやめてもらいたい」と七兵衛が云った。
「謙遜するな」と七十郎が笑った。七兵衛がいやと首を振った、「いや、その話しは困る」
「どうして、三人はみごとにやったし、忠誠の士だという金看板も付いた、なにも謙遜には及ばないじゃないか」
そして片手で膝を打ち、忠誠の士か、ふん、と鼻を鳴らした。