Japanische Klassiker mit Furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 167.285 Zeichen · 330 Bildschirme
いや、そうではない、と玄察が答えた。
「私はここが初めてなので、昏れるまえに景色を拝見したいと、お願い申したのです」
綱宗は笑って、和尚はおれが飲みたくなったのを察したのだ、と云い、「まず、遣わそう」と盃を甲斐に与えた。
予想とはちがった静かな酒宴で、話題もごく尋常なものばかりしか出なかった。酒のなかばで綱宗が、原田はまだ鶴千代を見ていないな、と云い、抱いて来て見せてやれと命じた。かような席では、と甲斐は辞退したが、夫人の初女が老女藤井に頷き、藤井はすぐにさがっていった。
「甲斐は国許で猪の牙にかけられたそうではないか」
と綱宗が云った。玄察は盃を持ったまま、面白そうに甲斐を見やった。
「猪ではなく鹿でございます」
「おれは猪だと聞いたぞ」
「くびじろと申す大鹿でございました」
「鹿のほうが姿はよい」
綱宗がそう云うと、夫人と玄察が笑った。
その話しを聞こう、と綱宗が云った。甲斐は盃を置いて話した。玄察にはまえに話したことがある。綱宗がもし玄察から聞いたとすると、省略するわけにはいかないので、「くびじろ」が自分の宿敵であった、ということから話しだした。――殆んど十年ちかいあいだ、追いつめては逃げられたこと、そしてついに、吹雪の中で正面し、勝敗を決する瞬間に、自分の弓弦が切れた。