Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
Lesen Sie 武蔵野 (わすれえぬひとびと) von 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 94.018 Zeichen · 192 Bildschirme
青年は水車場を立ち出でてそのまま街の方へと足を転しつ、節々空を打ち仰ぎたり。間もなく巷に出でぬ。
朝なお早ければ街はまだ往来少なく、朝餉の煙重く軒より軒へとたなびき、小川の末は狭霧立ちこめて紗絹のかなたより上り来る荷車の音はさびたる街に重々しき反響を起こせり。青年は橋の一にたたずみて流れの裾を見下ろしぬ。紅に染め出でし楓の葉末に凝る露は朝日を受けねど空の光を映して玉のごとし。かれは意にもなく手近の小枝を折り、真紅の葉一つを摘みて流れに落とせば、早瀬これを浮かべて流れゆくをかれは静かにながめて次の橋の陰に隠るるを待つらんごとし。
この時青年の目に入りしはかれが立てる橋に程近き楓の木陰にうずくまりて物洗いいたる女の姿なり。水に垂れし枝は女の全身を隠せどなおよくその顔より手先までを透かし見らる。横顔なれば定かに見分け難きも十八、九の少女なるべし、美しき腕は臂を現わし、心をこめて洗うは皿の類なり。
少女は青年に気づかざるように、ひたすらその洗う器を見て何事をも打ち忘れたらんごとし。幾個かの皿すでに洗いおわりて傍らに重ね、今しも洗う大皿は特に心を用うるさまに見ゆるは雪白なるに藍色の縁とりし品なり。