Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

Lesen Sie 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) von 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 132.395 Zeichen · 263 Bildschirme

Aozora Bunko

「いいえ、顔は一度も見ませんでした。ただ一度、今年の正月でしたか、開橋式の花火をみんなが見ているとき、女将さんがいそいそと廊下を通りかかり、その時、帰ってゆくらしい後姿を見ましたの。中背の小肥りな人で、女将さんは、あの方を見られるのを、そりゃ嫌がっていましたわ」

すると、左枝はいきなり寝台のうえに起き直った。彼は、ぜいぜいと喘ぐような呼吸をして、瞳は、なにかの希望に燃え輝くようであった。

「分ったよ。早苗、昨夜僕が見た首無しは、ありゃア、稲野谷兵助じゃなかったんだ。この事件とは、まるで関係のない別個の殺人なんだよ。だって考えて見給え。体位から推してみたからって、どうして、背の高い三伝が、低いあの男の腹を抉れるものじゃない。それを今まで、どうして僕が迂闊にも見遁していたのだろう。もともと、一瞥くらいで特徴が分るものじゃないが、とにかく、首無しが稲野谷兵助じゃないと分った」

そうして、左枝の顔に、それまでにはなかったところの、悽愴な気魄が泛び上がった。輸贏をこの一挙に決しようとするのであろうか、突然立ち上がると同時に廊下へ飛び出した。

客のない、しかも、死人のいるその夜の廊下は、どこにも、ひしむような、冷たい闇が這い漂っている。